生徒の命と生活を守る大事な仕事、非常勤ではなく専任で ~有朋高校通信制課程
【現場の声からはじめる春闘~シリーズ③】
長時間・過密労働をはじめ過酷な働き方が「代名詞」となりつつある教育現場。一方で、日々生徒に向き合い、学び・成長・発達を保障できる教育現場をめざしてひたむきにがんばっている教職員がたくさんいます。今回は、有朋高校で通信制を担当している北海道高教組(北海道高等学校教職員組合連合会)の土岐剛史(とき つよふみ)さんに「養護教諭の定員配置」を求める取り組みについてお話を聞きました。
大切なのは相手の気持ちに寄り添うこと
土岐さんは、初めて着任した中標津の高校で、労働組合は「大事」な存在であるとの考えから着任早々、自ら労組への加入を申し出ました。怪訝に思った先輩組合員からは「うちの労組は保険じゃないよ」と言われるなど、当時としては異色の存在です。
ここでは、とにかく色々な問題について「管理職を追及する」というスタイルの活動が行われており、何かと対決型の構図になることも少なくありませんでした。
28名の組合員のうち、「現業」の人も多かったのですが、どちらからというと教員の視点が中心になり、現業の人たちの声があまり届かない、「言い出せない」状態にあったのではないかと振り返ります。
その結果、組合員は3分の1まで減少してしまうという苦い経験から、同僚はもちろん校長や管理職も含めて、「相手の気持ちに寄り添う」ことの大切さを実感しました。
また、遠軽では難しい局面で選択を迫られた際、「もっとも困難な子どもに寄り添う」ことを選びました。そうした姿勢が、卒業式で生徒たちからもらった「手紙」や「花束」に込められ、ちゃんと伝わっていることがわかった時のエピソードを語る表情からは、土岐さんの優しさや温かみが伝わってきます。
唯一の道立通信制高校 多様な生徒の学びの場
公立では、道内唯一の通信制高校である有朋高校には、様々な事情・背景をもつ生徒たちが入学し、学んでいます。以前は校内に「託児所」が設置されていましたが、いまは「子ども同伴」で授業を受けることができるようになっています。
近年では「全日制」から転入してくる生徒も増え、より多様な生徒たちの学びを保障する役割を担っています。有朋高校通信制は5080人が最大定員で、現在は約3400人以上が在籍しています。
昨年の入学者数は1000人を超えるなど生徒が急増。大規模校の生徒がまるまる1校分増えたようなもので、求められる役割はますます高まっています。右肩上がりに生徒が増えている有朋高校ですが、道内全域をたった1校の通信制高校で賄うために、全道に32校のスクーリングのための「協力校」を置き、それぞれの協力校の全日制・定時制の教職員が、休日返上でスクーリングを担っています。
「札幌の本校と異なり、協力校では、教科の学習支援のスクーリングが中心です。協力校の生徒は学校生活のことは、電話等で札幌にいる先生と連絡をとります。札幌の本校の先生は、多い人だと1人で100名以上の生徒の担任をしており、ひとり一人に十分な支援をすることは困難な状態」というのが、北海道唯一の公立通信制高校の実態です。
様々な事情・背景を抱えながら学ぼうとがんばっている生徒たちを支えるには、学力だけではなく生活面や心身のケアも極めて重要です。
専任配置は絶対に必要! 有朋高校全体の要求に
「全日制の高校では、生徒たちからの様々な相談に対応する基本的な体制があります。定時制・通信制については、国の法律で養護教諭の配置義務は課せられていません。定時制・通信制で学ぶ生徒たちの中には、ネグレクト、DV、生活困窮など、『生きるため』に切実な対応が求められるケースもあります。ここが途切れてしまうと、『どうしようもない』状況に陥ってしまいかねません。学校全体での相談・支援体制確立が必要です」と、常勤の養護教諭を配置することが急務かつ重要な課題だと土岐さんは強調します。
校長とは、着任当初から学校の問題について意見交換を行ってきました。生徒たちが「学び続けられる」ようにするためには、養護教諭の専任配置が必要であるとの見解で一致、校長自ら道教委へ要請しました。
組合は、教職員の連名要望書を提起。管理職を除く全教職員に呼びかけ、9割を超える教職員の署名を集め、直接教育長へ手渡しました。
生徒たちへの支援
チームで向き合いたい
これまでも北海道高教組本部が全体を網羅した要求書には、一項目としての記載はありました。本部や支部役員以外で、学校の中で現場の声を広げ、その声を当事者が持って直接交渉に参加するケースは稀です。
19年間、非常勤の養護教諭として勤務してきたA先生は、多様化・複雑化する生徒への支援を確かなものにするためには、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、教育相談員などのスタッフが、「チーム」として向き合える環境や、養護教諭は、その中にあって重要な役割を担う職種であり、専任配置が必要であることを訴え続けています。
「有朋高校で19年間、非常勤・会計年度任用職員として勤めてきました。年間102日の勤務です。普通、学校には養護教諭が常勤でいるのが当たり前で、電話かかってきても『すみません。私、常勤じゃないので..お電話には毎回出られません』ということを、毎回伝えなければなりません。生徒は3000人を超えていて、私たちの仕事は生徒の命を守ること、生活を守ることになっているのですが、年102日だけの勤務では、とても生徒たちの命を守ることはできません。19年間思い続けてきた『正規の養護教諭を配置してほしい』という願いを持ち続けてきたが、それも力尽きて退職することとなった。どうか、正規での養護教諭を配置してください」
1月25日、北海道教育長に直接伝えたA先生の言葉は、まっすぐで、切実で、とても力強いメッセージが込められていました。
全国トップの在籍数
専任配置は道政の責務
有朋高校での取り組みは、学校現場で起きている問題を対決型ではなく共感を広げていくこと、「本部・役員任せ(請負)」にせず当事者の声とパワーが発揮できるようにすること、「中の問題」をより多くの人に知らせて「自分たちの問題だ」と思ってもらえるようにすること、等々の大切な教訓がいくつも散りばめられています。
学校現場には、社会・制度の構造的な問題や矛盾が、より集中して顕著に表れています。全国的にも、公立通信制高校の生徒数は神奈川に次いで2番目。神奈川は2校あるので、学校単位での在籍数は有朋高校が全国一です。
全国的には公立の通信制高校の生徒数は減少傾向にある一方で、北海道は有朋高校の生徒数が急増しています。神奈川や埼玉では、専任の養護教諭を配置。3000人を超える規模で専任の養護教員を配置していないのは北海道だけです。
唯一の道立通信制高校において、道義的にも予算的にも「たった一人」の養護教諭を専任配置できない理由などありません。必要なところに、必要な支援がきちんと届くようにすることは、道政のもっとも重要な責務であり、まさに道民全体の課題です。
学校現場で起きている問題を多くの人たちに知らせつつ、「有朋高校通信制に専任養護教諭の配置を!」の声を広げ、高教組のみなさんと一緒に実現をめざしましょう。
土岐 剛史(とき つよふみ)さん
青森出身。56歳。趣味は、パソコン修理、カメラ(高校生時代から)、ギター(ヘビメタ)など多彩。放送局でアルバイトしていたこともある。教員採用で北海道へ着任。初任校は中標津。その後、遠軽、岩見沢を経て現在の有朋高校へ。
北海道高教組
ホームページ https://dokokyoso.jp/ フェイスブック @dokokyoso
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